あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
だから今から変わろうとしていたのに、その決断はまたしても豪子と尚華の手によって阻まれる。
ふっと目の前が真っ暗になった伯蓮は瞼を閉じ、抵抗していた腕は尚華から静かに離れた。
「あら? やっと諦めてくださったのかしら?」
何も言い返さない伯蓮の襟元に、尚華は手を伸ばしてゆっくりと侵入させていく。
苦しそうに呼吸する伯蓮を楽にさせるためには、昂る欲望の解放しかない。
そう思うと自然と笑みが溢れる尚華。
これで子ができれば胡一族の地位も確約され、母体となった尚華は敬われる存在になる。
婚姻の解消を望んでいた伯蓮も、子ができた以上は解消は認められなくなり、尚華を妃として扱わなければならない。
全ては豪子の計画通りだが、慕う伯蓮と約束された関係を継続できると、尚華も安心した。
そうして露わになった伯蓮の胸板目掛けて、上体を前に倒した尚華が唇を寄せた時。
ようやく伯蓮が沈黙を破った。
「…………私は、もうどうなっても良い……」
「まあ、このまま身を委ねるという事ですね」
「その代わり……朱璃の身に何かあったら……その時は」
言いながら伯蓮が目を開くと、まるで全ての憎悪が凝縮されたような瞳で尚華を睨んだ。
そして、あの優しい穏やかな性格の伯蓮からは想像できないような言葉が、冷たく言い放たれる。
「お前も豪子も、胡一族全員……この世から葬ってやる」
「……っえ……」
「それがいずれ皇帝に即位した私の、最初の仕事となろう」
自由がない皇太子を辞めたいと思っていたはずの伯蓮が、即位した未来の話をする矛盾。
一族を滅亡させるほどの非道を行えば、二百年続く鄧王朝の歴史に傷がつく。
それどころか元下女の命一つと、二代連続で皇帝に仕える宰相とその一族の命が同等のはずないのに。
伯蓮にとって、朱璃がそれほどの価値のある人間なのかが充分窺えた。
誰かに愛されたことを実感できない尚華には、それがとてつもなく悔しくて疎ましく、そして羨ましい。
すると突然、尚華の意図とは関係なく目から涙が溢れ出ていた。