あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「……わたくしは、一体なんなのでしょうか……」
豪子の望みを叶えようとすれば、伯蓮に一族の命を脅かされる。
伯蓮をここで解放すれば、豪子には失望されて一生惨めに生きる。
父親からの愛も感じられず、伯蓮を慕ったところで絶対に愛されることはない。
そんな人生に、尚華本人の心も擦り減っていて限界を迎えていた。
「認められたい、愛されたいだけなのに……誰もわたくしを見てくれない……」
ぼたぼたととめどなくこぼれ落ちる尚華の涙が、伯蓮の胸を濡らした。
その反応を見て、落ち着きを取り戻していく伯蓮は少し責任を感じて視線を逸らす。
「……だからと言って、こんなやり方は……間違っている」
「っそれでも、父上の指示には逆らえません……!」
「私だけではない。娘である尚華妃も共に傷つける行為を促す父親など、それはもう……父親ではなく、鬼の所業だ」
ハッとして目を見張る尚華は、伯蓮を見下ろしながら問いかけた。
「鬼……?」
「ああ……もし私に娘がいたら、幸せを常に願うし、政に利用したくはない」
「ですが、そうやって鄧王朝も続いてきたではありませんか!」
「だから私は、尚華妃と共にそのしきたりを……断ち切りたいと言ったであろう」
茶を飲む前の会話を思い出した尚華は、ようやく父親の呪縛から目が覚めそうな状況にいた。
父に認められたくて必死に思い通りに動いてきた尚華だが、その行為そのものが愛ではない。
伯蓮の言葉でそう悟ることができた途端、背負っていたものが落ちて身軽さを感じた。
先ほどまで殺気立っていた両者が、嘘のように沈黙して静かな時間だけが流れた、その時。
「伯蓮!」
「っ……?」
突然名前を呼ばれた伯蓮だが、初めて聞く声に誰なのか見当もつかないまま周囲を見渡す。
しかし、どうやら尚華には聞こえていないようで無反応なところをみると。
相手はあやかしだということが理解できた。
(だ、誰だ……?)
思いながら伯蓮がその姿を探していると、突然天井から黄色い毛に覆われたあやかしが着地する。
初夜妨害の日以降、会うことがなかった貂々だった。