あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
北にある廟に到着した伯蓮と貂々。
建物自体はそれほど天井が高くなく、かなり年季が入っているのが窺えた。
壁の木材は腐り剥がれ落ちていて、屋根の瓦も破損したまま修復されていない。
忘れ去られたように静かで寂しげな場所に佇む、古びた廟が二人を出迎えた。
「……後宮内に、こんな建物があったとは」
「なんだ知らなかったのか。皇太子のくせに」
「うっ、後宮自体来ることがないのだ」
「十歳までは住んでいただろう」
「……貂々、やけに詳しいな……」
催淫効果が完全には抜けていない伯蓮にも厳しい貂々は、スタスタと歩みを進め露台に飛び乗る。
そして観音開きの板扉前に立ち、「早く開けろ」と言わんばかりの視線を伯蓮に送った。
「わ、わかっている……!」
慌ててあやかしの指示を聞くこの国の皇太子に、貂々も少し将来を不安に思いながら建物内に入る。
中は長方形に空洞が広がっているように感じたが、窓は閉め切られていて音もなく、鮮明には認識できない。
ただ、屋内にもかかわらず、まるで屋外と同じくらいの冷たい空気が漂った。
伯蓮は初めて訪れる場所で間取りも不明のため、どこに朱璃が閉じ込められているのかわからない状態。
しかし、人を閉じ込められそうな部屋が一つだけあると勘づいた貂々が、暗闇の中で声をかけた。
「壁をつたって右に向かえ」
「右?」
「角を曲がった奥に書庫がある」
「わ、わかった」
暗闇の中、壁に触れながら前に進む伯蓮。
徐々に暗闇に慣れてきた目が、物の輪郭を認識するようになってくる中。
ここにくるまでの全力疾走で再び動悸を覚える体を鎮めながら、伯蓮は朱璃の発見を願った。
そうして扉らしき部分に手が引っかかり、銅製の錠が手に触れる。
鍵がないと開錠できない種類だが、もちろん持っているはずがないし探している時間もない。
心の中で「後ほど修復いたします」と宣言した伯蓮は、少し後ろに下がると助走をつけ、渾身の体当たりを扉にお見舞いする。
バキバキィ!と板が割れる音が響いて、木の粉や破片が舞う。
それをかき分けながら、伯蓮と貂々は部屋の中に侵入した。
「っ朱璃! どこだ!」
棚がいくつも並び、すぐには朱璃の姿を確認できない。
まさか外れ?と焦りはじめる伯蓮が、部屋の奥へと進んだ時。
信じ難い光景が視界に飛び込んできた。