あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「無礼者!!」
宦官の一人がそう叫び、同時に他の宦官が伯蓮を守るようにして壁を作る。
そんな中で上体だけを起こした朱璃は、不意に伯蓮と目が合った。
(や、やってしまった……!)
皇太子の進行を妨げただけでなく、ただの下女が皇太子と視線まで合わせてしまった。
腕の中の貂々はジタバタと動いて逃げようとするから、それを必死に止める朱璃。
しかし他の者の鋭い視線は、当然ながら朱璃にだけ向けられた。
あやかしを捕まえた、なんて言い訳はここでは通用しないことを充分理解している。
朱璃はそのまま地面に額を擦り付けると、大きな声で謝罪した。
「も、申し訳ありませんでした!!」
「下女の分際でよくも伯蓮様の足を止めたな⁉︎」
そのとおり、おそらく華応宮に住む尚華に用があるからこうして足を運んでやってきた伯蓮。
それを邪魔する者は、このまま無傷では許されるはずがない。
過酷な労働をさせられるかも、と朱璃が予想していると、先ほどから威勢の良い宦官が、隣にいた部下に指示を出した。
「この下女を鞭打ちに処せ」
「はっ」
(ひぇぇ、鞭打ち――⁉︎)
いくらなんでもそれは重すぎる刑だと反論したかったが、それは更に刑を重くさせる行為。
朱璃は絶望の淵に立たされていて、恐怖心から貂々を強く抱きしめた。
そこへ宦官らをかき分け朱璃の目の前にやってきた伯蓮が、黙ったままじっと見下ろしてくる。
優しくも芯のしっかりした、真っ直ぐな瞳が朱璃に注がれた。
「……怪我は、ないか」
「ッ⁉︎」
言いながら屈んだ伯蓮が、こちらに手を差し伸べてくる。
まるで時が止まったような瞬間に、朱璃の心臓も思わず加速した。
目の前の、赤切れ一つない高貴な手に縋りたくなった時、宦官が止めに入って現実に引き戻されてしまう。
「伯蓮様なりません! 下女にお手を触れさせるなど!」
「転んでいる者がいれば、誰だろうと労る」
「しかし、この者のせいで尚華妃への訪問が遅れます!」
「茶会に招待されただけだ。そこまで急ぐ必要はないだろう」
華応宮にやってきた理由、それは尚華との急遽決まったお茶会のためらしい。
下女の朱璃を差別する宦官と、それを物ともしない伯蓮の意見がはっきり分かれ、不穏な空気が流れる。