あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
今から二百年前、鮑泉が第十代皇帝となる以前の出来事。
十八歳の皇太子だった鮑泉には、密かに想いを寄せる姚羌という同い年の侍女がいた。
やがて二人は身分差を超えて慕い合う仲となり、ついに鮑泉は姚羌を妃にしたいと父親である当時の皇帝に申し出る。
すると皇帝はある条件を出してきた。
『宰相の娘を妃として迎え、のちの皇后とすること』
『そんな、まだ世継ぎもなく即位もいつになるか不明だというのに――』
『昔から皇后は格式が求められている。お前も知っているだろう』
『ですが姚羌はとても誠実で深慮深く――』
『フン、農民の出の皇后など聞いたことがないわ。お前は鄧王朝の歴史に傷を作るつもりか』
『……父上……』
つまり政略結婚を強いられた鮑泉は、身分の低い出の姚羌を妃にしたところで皇后にすることはできず。
正妻として臣下や国民に認めてはもらえないのだと悟る。
しかし姚羌は、鮑泉のそばにいられるなら妾で充分だとして入内を決意。
渋々条件を飲んだ鮑泉は、姚羌を貴妃の位に置き宰相の娘を皇后候補として迎えたものの。
娘の宮に赴くことはなく姚羌の宮ばかり通い、寵愛し続けていた。
そうして三月が経った頃、宰相の娘が体調を崩して寝込んでしまったという知らせがやってくる。
見舞いに向かった鮑泉はそこで、娘が少量の毒を盛られたことによる体調不良であると告げられた。
そしてその策謀の犯人が、貴妃の姚羌だと報告を受ける。
『姚羌が? そんなはずがない』
『わたくしに恨みを持つ者は、この後宮内に姚羌妃だけです』
『証拠もないのに何を――』
『現にわたくしはこうして倒れました! それが証拠です!』
そう言いがかりをつけて、捕らえるよう騒ぎ立てる宰相の娘を宥める鮑泉。
しかし噂は瞬く間に広がって、宰相や皇帝の耳にも届いてしまう。
根拠も証拠もない中で、宰相の娘の証言だけが信用される現実。
どう足掻いてもこの国の皇帝の決断は絶対で、重要参考人という名目で姚羌は牢に閉じ込められた。
そして皇帝は、姚羌に心酔している鮑泉が証拠隠滅に加担するのを恐れて、姚羌との面会も禁止する。
鮑泉はそれから毎日、皇帝と宰相、そして宰相の娘に抗議した。