あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「“姚羌様は相変わらずお美しかった。ただ……その傍らには立つのを覚えたばかりの幼な子と、薪を抱えた温厚そうな男の姿”」
「え……」
「鄧北国を追放されてから二年。新たな家族と幸せに暮らしていた姚羌様に、侍従は声をかけずに立ち去ったらしい……」
王宮に戻った侍従は、鮑泉に事実を伝えようか迷った。
しかし、全てを知りたいと本人が望んだため、目撃したままを包み隠さず報告する。
姚羌の現在を知った鮑泉は、ただただ悲しげに笑っていたという。
それからの鮑泉は、政は宰相の思うままに運ばせ、毎晩酒を飲むようになってしまった。
後宮への入内を希望する者は皆快く迎え入れ、寂しさを埋めるように宮にも通ったという記録がある。
酒に溺れ女に溺れた、歴代皇帝の中で暗君と呼ばれる鮑泉の、世間には知られていない悲しき恋の物語。
「しかし酒の飲み過ぎが祟ったのか、鮑泉様は四十代の若さで……」
「……どうかあちらの世界では穏やかに過ごせていると良いですね」
「そうだな。鮑泉様は心優しいお方だったのだと思う。私の密かな憧れ、十代皇帝陛下……」
そう言って目を閉じ祈りを捧げる伯蓮に、朱璃も塑像に向かって手を合わせた。
二人の姿を横目に、貂々も黙って鮑泉の塑像を見上げる。
幕を被せられ、忘れ去られていた塑像が今、少しだけ微笑んだように見えた。
「さあ、そろそろ廟を出ようか。流は幕を元通りに」
「わかってるよ。しっかし皇帝ってなんだか孤独だなー」
言いながら塑像に幕を掛け直した流に、伯蓮は眉を下げて悲しげに微笑む。
そう、皇帝も皇太子も、皆孤独だ。
だからこそ、その宿命にある伯蓮は今のしきたりや習慣を変えていきたいと考える。
鮑泉の経験した悲劇が、よもや自分にも当てはまってくるとは、伯蓮も予想していなかったから。
(いや、私はまだ朱璃とはそこまでの仲ではないが……)
と思いつつ、特別な感情の芽生えは自覚している伯蓮が、そっと視線を落とす。
すると自分の腕に抱き抱えられるままの朱璃は、すっかり安心した様子で自分の吐息を両手に当てていた。
このまま想いだけが先走っても、鮑泉の時のような悲劇を招き兼ねない。
この恋路を突き進むためにはまず、戦わなければいけない者の存在を伯蓮は理解していた。