あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「私は毎日、朱璃の雑談を聞くのがなかなか楽しみだったぞ?」
「……え?」
「それに撫で方も優しい。あやかしへの敬意を感じられて、心地がよかった……」
「……貂々……」
少し照れくさそうに話す貂々の、今まで話さなかった分の気持ちを受け取った朱璃は、感動で瞳を潤ませた。
正体が鮑泉だとしても、あやかしの貂々として接してほしいと言われては、そのように努力はしよう。
そう思って頷いていると、二人の仲に少しだけ嫉妬のような危機感を覚えた伯蓮が会話に割って入った。
「では私も、憧れの鮑泉様としてでなく貂々として接しよう」
「む……同じ皇族から言われると少し複雑だな」
「これからもご指導ご鞭撻をよろしく頼むぞ、貂々」
伯蓮は爽やかな笑顔を浮かべていたが、その腹の内に秘めた感情を、貂々はなんとなく察していた。
朱璃に優しく扱われている貂々に嫉妬したのか。貂々の言葉に下心でも感じたのか。
いずれにしても、まだまだ青い皇太子であることに変わりないなと鼻で笑う。
ただ、朱璃を傍に置いておきたいのなら、皇太子としての伯蓮にもっと厳しくする必要があった。
次期皇帝としての彼が、自分と同じ道を歩まないように――と貂々が大事な話をはじめる。
「私がずっと華応宮の中庭にいたのは、尚華妃を監視するためだった」
「それでいつも中庭に? どうして尚華妃を……」
「朱璃には難しい話だが……伯蓮には、この意味をわかってもらわないと困るのだが?」
そう問われた伯蓮は、少し考えるように沈黙して静かに頷く。
尚華が入内したのと同時期に、中庭の木の上に現れたあやかしの貂々。
てっきり国一の美女と謳われる尚華見たさにやってきたのかと朱璃は思っていたけれど、
どうやらそれは、もっと重大で複雑な事情を抱えていたようだ。
「尚華妃推しとか言って、ごめんね……?」
「朱璃の変な思考回路はだいたいわかっていた。もう良い」
「……もしかして、初夜の日に部屋へ侵入したのも、尚華妃をずっと威嚇していたのも……」
「全部計画していたことだ」
冷静に説明する貂々に、朱璃は理解が追いつかなくて戸惑い、流は興味ない様子で明後日を見る。
しかし伯蓮だけは、まるで自分の憶測と答え合わせをしているように聞き入っていた。
そして――。