あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「……貂々も気づいていたということか、宰相の陰謀を」
「え! 陰謀⁉︎」
思わず大きな声を出してしまった朱璃が、すぐに自分の口を両手で塞ぐ。
そして貂々は、深刻な表情でコクリと頷いた。
現在宰相として皇帝の政を補佐する重要人物、胡豪子に陰謀の疑いがあったなんて。
政権を揺るがす歴史的に重大なことが、朱璃の知らないところで進んでいたらしい。
伯蓮は朱璃にもわかりやすいよう、説明を付け加えた。
「その手始めとして娘の尚華妃を入内させ、やがて皇后にのし上げようとしていたのだ」
「……確かに伯蓮様と尚華妃の婚姻は、政略的なものを感じていましたけど。あくまで良好な関係を築くためだと……」
「周囲がそう思うのも仕方ない。そうして皇族と臣下は長い歴史の中で関係を深めていたのだから」
だからこそ四百年も続く鄧王朝が滅ぶことなく、皇族と臣下が協力してより良い国づくりを心がけてきた。
しかし、その長い歴史のしきたりが、時に鮑泉のような悲劇を生むこともある。
そして今回は、大きな野心を持ちはじめた豪子が、密かに陰謀を企てていた。
胡一族の血を引く皇帝を育て、いずれ鄧王朝を乗っ取ろうと――。
「豪子は二代に渡り皇帝に仕えている優秀な宰相だ。しかし近年、裏では私利私欲を満たしていいように政を運ぶ」
「正体を現してきた、ということでしょうか?」
「元々野心家だったのだろう。現皇帝で今は床に臥せっている父上も豪子に全てを任せている始末。もはやどちらが皇帝かわからないな」
皮肉を口にする伯蓮は、それでも豪子の手のひらで転がされている父親を救いたい。
そのため、豪子の行動を侍従の関韋に見張ってもらうこともあったが、なかなか証拠が掴めず困っていた。
すると、何やら得意げな顔をした貂々が口を開く。
「なぜ私が最近、中庭から姿を消していたと思う?」
「え?」
「初夜を妨害した次は、豪子を見張るために外廷に行っていたからだ」
他の人間には視えないあやかしという立場を利用して、なんと豪子の仕事場に潜入していたと貂々は言いはじめた。
流といい貂々といい、あやかしの自由な行動に振り回されている感を覚える朱璃。
ただ、そこで重要な証拠を掴んだ貂々は、伯蓮にある指示を出した。
「今回の尚華妃の件で、近々豪子から呼び出されるだろう」
「……わかっている」
「その時は私も駆けつけるから、決して負けるな」
「っ……!」
そう念を押してきた貂々は、もうすぐ後宮から出られる門には向かわず、塀を乗り上げて姿を消した。
今、宰相の陰謀で政権が脅かされようとしている中、かつての暗君、第十代皇帝の鮑泉がそれを救おうと奮闘している。
姿は違えど、国を思う気持ちはあやかしになっても変わらない貂々に、伯蓮は改めて憧れの心を抱いた。