あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される

十五話 片恋

　蒼山宮前の門番が扉を開けてくれて、やっと戻ってくることができた。
　敷地内に入った途端、一気に安堵感が倍増する三人。
　すっかり体も暖まっていた朱璃は、ここまでずっと抱き抱えて運んでくれた伯蓮に礼を言う。

「伯蓮様、もう自分で歩けます。ここまで運んでくださりありがとうございました」
「あ、ああ……」

　ゆっくりと朱璃の足元を地面に下ろした伯蓮に疲れた様子はなく、むしろ残念そうに眉を下げていた。
　腕の中に確かにあった温もりが離れていき、なんとも言えない名残惜しさを覚える中、隣の流がぐったりしながら文句を言い出す。

「はあ、なんで人間の体ってすぐ疲れるんだよ」
「流が鍛錬不足なだけではないのか？」
「あやかしの体は疲れ知らずなんだ。やっぱ人間の体って面倒だなー」

　早くあやかしの姿に戻りたい気持ちになっていた流に対して、朱璃は一つの疑問が芽生えた。
　流星への願い事によって一時的に人間の姿になれた流は、いつ元の姿に戻るのか。
　すると熱い視線に気づいた流が、妖しく微笑み軽々しく肩を組んできた。

「なんだよ朱璃。そんなに俺のことが気になるー？」
「え？　いや、流っていつになったら――」
「仕方ねーな、そんなに心細いなら今夜は俺が一緒に寝てやってもいいぞ？」

　顔を急接近させて囁かれたものの、なぜそういう話になるのか全く理解できない朱璃が、流の腕から逃れようとした。
　しかし、それよりも先に背後から首根っこを掴まれた流が、朱璃の体から剥がされる。
　慌てて振り向くと、主人の伯蓮が憤激の空気を纏って睨んでいた。

「……誰が、誰と寝るって？」
「あ、すんません。一人で寝ます。いや、星と寝ます」
「お前にはつがいの星がいるのだから、大切にしてやらないと駄目だろう」

　至極真っ当な意見を述べる伯蓮に、朱璃も感心しながら頷く。
　ただ、ここに戻ってくるまでの間に流の性格がなんとなくわかった朱璃は、クスッと笑みが溢れた。

「ねえ、流と星は人間の頃からつがいだったの？」
「あ？　まあ、それに近いけど星は何て思ってんのか知らね」
「そうなんだ、どうして？」
「あいつはいつも冷静っつーか、俺に対してすげー淡白なんだよ」

　言いながら口を尖らせる流の様子に、朱璃は確信する。
　恋愛をしたことがない朱璃が、人の恋路を気にかけている場合ではないけれど、
　星はきっと、流のことを信じてずっと待っていたと思っていたから。