あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「もしかして流が美女好きって言ってるのも、星の気を引きたいだけじゃない?」
「は、はあ?」
「妬いて欲しいのかなって、そんなふうに感じたけど」
素直になれない少年が、好きな子の気を引くためにわざと大胆な行動をとる現象。
だとしたら流は、とても純粋で可愛い一面もあるんだなぁと朱璃は思ったけれど、どうやら本人は解せない表情。
ただし顔全体を紅潮させて明らかに図星という反応をしながら、全力で否定してくる。
「バカ朱璃ちげぇよ! なんでそんなことしなきゃいけないんだ!」
「バ……」
「俺は本当に美女が好きなんだー!」
世界一どうでもいい宣言のような気もするが、流がそこまで言うならそうしておこうと口を噤む。
しかし、そんな朱璃の態度すらも全て見透かされているようで、流は気に食わなかった。
流は乱暴な足音を立てて、敷地の最奥にある蒼山宮へと一人で向かっていく。
そうして突然二人きりになった時、急に不自然な静寂が漂ったので朱璃が慌てて話しはじめた。
「流を怒らせてしまったみたいで、すみません……」
「いや、宮に戻ったら私からも言っておく」
「流が無事に戻ってこられて、これで伯蓮様も一安心ですね!」
「朱璃も無事で良かった。本当に……くしゅん」
その時、伯蓮が一つのくしゃみを発して、朱璃に緊張が走る。
目の前の伯蓮が薄着なのは、全裸だった流に上衣を貸したことと、寒さで低体温症となった朱璃に外套を貸したから。
大事な皇太子に風邪を引かせてしまったら……朱璃はいつものように侍従の関韋の怒り顔を浮かべて身震いした。
「大変! 伯蓮様すみません、こちらお返しいたします!」
「え……」
「すぐに体を暖かくしてください!」
借りていた外套を急いで脱いだ朱璃が、そのまま伯蓮に羽織らせようとした。
しかし、自分より高身長の伯蓮の肩にうまく外套が掛けられなくて、躊躇なく体を近づけ背伸びをする。
不意をつかれた伯蓮の首筋に、朱璃の吐息がかかる中、なんとか外套を羽織らせることに成功。
そうして伯蓮の首元で、朱璃が紐を結んであげている時。
今まで我慢していた伯蓮の箍が外れたように、その両腕が背中に回ってきて、抱きしめられていることに気がついた。