あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
一方、遠ざかる朱璃の背中を見送ることしかできなかった伯蓮は、自分の気持ちが正しく朱璃に届いたのかわからず。
かと言って確認の機会も与えられないまま、その場に立ち尽くした。
「……今のは、遠回しに断られたようだな……」
朱璃を妃にする理由が伯蓮の心臓の鼓動だと示したところ、仕事を頑張りたいと告げられた。
つまり妃になるつもりがないどころか、今の朱璃は伯蓮に対して特別な感情は抱いていないらしい。
そこはさすがの伯蓮も落ち込んでしまうが、片恋とはそういうもの。
もちろん、ここで諦めるつもりはなく、自分の宮に向かって歩きながら思考を巡らせた。
「やはりはっきりと言葉にするべきか、しかし心の準備が……」
皇太子である伯蓮が、強制的に妃になることを命令したら、朱璃に拒否する権限はない。
しかしそんな無理強いはしたくないほど、朱璃の気持ちを尊重したいし大切に思っていた。
あの笑顔を奪うことだけはしたくない。
そのためには、朱璃自らが妃になることを承知してもらう必要がある。
「想われるよう……気長に、地道にいこう……」
肩を落としながらも、伯蓮は前向きな気持ちで朱璃と向き合うことを決めた。
するとますます意欲も湧いてきて、それは伯蓮にとってあらゆる事柄への活力にもなる。
他人をここまで想うことのなかった伯蓮にとって、新たな発見でもあり。
今なら貂々、改め第十代皇帝鮑泉が侍女の姚姜をどれほど愛していたか、少しでも理解できる気がした。
そう考えているうちに蒼山宮に到着した伯蓮は、最上階の私室に入る。
すると、架子牀の衾の上で仲良く寄り添っている、あやかし姿の流と星。
先に宮に帰っていた流は、いつの間にか元のあやかしに戻っていて、再会した二匹は仲良く寝息を立てていた。
すぐそばには伯蓮が全裸の流に貸した上衣が、無造作に置かれている。
「もしや、寝るとあやかしに戻るのか……?」
人間の姿となった流が、いつあやかしに戻るのか気にしていた朱璃を真っ先に思い浮かべた。
そして“明日教えてやらねば”と健気に思いながら、窓際の牀に腰かける。
低い位置に移動した三日月を見上げ、長い長い一日を終えようとする中、
少しだけ二人の関係が動き出したことを、伯蓮は少し誇らしげに思って微笑んだ。