あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



 朝餉を終えた伯蓮は、毎日鍛錬場に向かって体を動かすのが日課だった。
 その間、伯蓮の執務室を清掃する朱璃は、遊びにやってきた三々に相談する。
 伯蓮とのやりとりと、自分の身に起こっている説明のしようがない変化を――。

「それは恋だな」
「え⁉︎ ……ゲホ、ゲホ!」

 三々の発した単語に驚いた朱璃は、盛大にむせてしまった。
 しかし、そんなことはお構いなしの三々は、やっと動き出した二人の関係をわかりやすくまとめはじめる。

「伯蓮を見ているとドキドキする、抱きしめられた感覚が忘れられない」
「う……そんなはっきりした感じには言ってない」
「んで伯蓮からは妃になればいいと言われた」
「それも、冗談だったかもしれないけど」
「でも伯蓮のドキドキしていた心臓の音を聞いた」
「……たまたまかも」
「二人とも、恋だな」
「やめてよー!」

 自慢ではないが、生まれて十七年恋とは無縁に生きてきたし、そんな余裕がなかった朱璃は頭を抱えた。
 恋をする感覚も、どこからが恋と呼べるものなのかも不明。
 ましてやお相手は皇太子。恋をしていい相手ではないことだけは朱璃が一番よくわかっている。

「何の問題があるんだよ、朱璃も伯蓮も好き同士なら――」
「大問題だよ! 大体私は侍女で、伯蓮様は皇太子! 身分が全然違うっ」
「人間ってめんどくせぇな。あやかしに身分なんてもんはねーから」
「三々も元は人間だったくせにぃ」
「はーあやかし最高だぜ」

 人間だった頃に比べてあやかしである今が気楽で最高だと思っている三々が、嫌味混じりに言ってくる。
 頬を膨らませて睨む朱璃だが、こんなことを相談できる相手は今のところあやかししかいない。
 まともな答えを求める方が難しい気がしてきて、表情が曇ってしまった。
 それに気づいた三々は、少し考えてから朱璃の肩に乗って言い聞かせる。

「伯蓮ほどの身分の人間なら朱璃を妃に指名するなんざ簡単なのに、それをしないのはなぜだと思う?」
「え……と。本気ではないから……?」
「ばっ――伯蓮が不憫だな。朱璃の気持ちを尊重しているからに決まってんだろ」
「尊重……?」
「それほどに朱璃も、朱璃の気持ちも大事に思ってるってことだ」

 三々の指摘に何も言い返せない朱璃は、自分が思っている以上に伯蓮が色々と考えて気を遣っているということに気づく。



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