あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
二話 初夜
鞭打ち回避の件から一週間が経った。
相変わらず中庭の掃除に時間がかかっていた朱璃が、全ての落ち葉を片付け終えた頃にはすでに日が傾いていた。
「やっと終わったー!」
その間、貂々がいつもの木の上でのんびりうたた寝をしていたから、長い間の単独作業も寂しくはない。
すると尚華の侍女たちが宮中を慌ただしく動いている様子がふと視界に入って、とある情報を思い出す。
「そうだ貂々。実は今夜、伯蓮様が華応宮にくるんだって」
「……。」
「いよいよ初夜を迎えるみたい。あのお優しい伯蓮様が、胡一族の尚華妃と……」
この婚姻が政略的意味を持つということは、下女の朱璃にもわかっていた。
だけど先日、伯蓮の人柄や慈悲深さに触れた身としては、感情的になりやすい妃と皇太子の契りは素直に喜べなくて。
「こんなこと、下女の私が考えることじゃないかもしれないけれど」
「……。」
「伯蓮様には、幸せになってほしいなって思うんだ」
身分に関係なく、他者を思いやり手を差し伸べてくれる優しい心の持ち主だった。
そんな皇太子がいつの日か皇帝陛下となられた時に、傍で支えてくれるような……。
伯蓮を一番に想ってくれるような素敵な妃と、どうか結ばれて欲しいと願う。
「で、でも尚華妃は伯蓮様をお慕いしているはずだよね。お茶会に招待するくらいだもの!」
「……。」
「伯蓮様も、国一美しいといわれている尚華妃には、すぐに心を奪われてしまうだろうし……」
「……。」
「美男美女の夫婦誕生に、街も賑わっているのかな?」
相変わらず話してくれない貂々を相手に、朱璃は様々な思考を吐露しては無意識に表情を曇らせる。
興味なさそうにそっぽ向く貂々も、耳だけはしっかり朱璃の方に傾けていて。
ただ、あやかしが視えていても、その思考まではみえないことに、朱璃は残念な気持ちを抱いた。
その時、廊下を慌ただしく歩く侍女が朱璃の存在に気付いて、咄嗟に声をかける。
「ちょっとそこのあんた、お願いしたいことがあるんだけど!」
「え? 私ですか?」
秋の夕焼け空の下、朱璃に初めての仕事が充てられた。