あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



「商人から購入した異国の商品を、高値で市場に転売しているという噂もある」
「っ……噂は噂。皇太子ともあろうお方が惑わされないでください」
「何もないところに噂は立たない」
「私に恨みを持つ者のでっち上げにございます。断じてそのような悪どいことは致しません」

 言いながら善人そうな笑顔を作る豪子だが、伯蓮と関韋は一切信じていない。
 娘に罪をなすりつけ、取引した違法商品は隠す。異国の商品を高値で横流し、噂は噂と言い逃れをする。
 これでは正直に話した尚華も浮かばれないなと思っていると、豪子の反撃がやってきた。

「しかし伯蓮様。そこまでおっしゃるほどの証拠があったのでしょうか?」
「この取引報告書の捏造が――」
「ははは。それだけでは私が異国の違法商品を仕入れたり、高値で転売している証拠にはなりません」
「ではなぜ商人の名も商品の記載がないのだ」
「私の部下の“手違い”かも知れませぬな」
「なん、だと……」

 あれこれと言い逃れをしてくる豪子に、伯蓮も苛々が積もる。
 しかし、ここで引き下がるわけにはいかないと更に指摘した。

「部下の失態の責任は上司にある」
「私はしっかり“記載するように”指導していたので部下個人の失態です。出来の悪い部下を持つと苦労が絶えませんね」
「今度は部下のせいにするのか」
「せいではありません、部下が私を陥れようと勝手にやっていたことですから」

 保身的な発言ばかりで、娘も部下も切り捨てることに躊躇がない。
 人の心というものを感じられない豪子に、伯蓮も関韋も呆れていた。
 だがこの男が今、紛れもなく政を動かしているということにも恐怖を覚える。
 早く宰相の座から引き摺り落としたい。
 ただ、決定的な証拠がない限り豪子も折れない。
 すると豪子の背後にあった窓から、顔を覗かせているあやかしに気づいた伯蓮。
 この国の第十代皇帝だった鮑泉で、今はあやかしとなった貂々だ。

(貂々! やっときてくれたか)

 もちろん貂々の姿は関韋や豪子、その他の人間には視えない。
 すると窓を叩く素振りを見せてきて、“開けろ”という意味に捉えた伯蓮が一芝居打ってみた。


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