あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
謁見を終えた伯蓮は、宮城外の門前で待たせている関韋と合流するまでの間。
その敷地内をかつての皇帝、貂々と並んで歩いていた。
寒空の夕日が辺りを照らし、新雪と毛並みの美しい貂々の体を輝かせている。
「では、貂々が調査を開始したのは、豪子の野心をたまたま立ち聞きしたから?」
「そうだ。あいつは私が築いた国を乗っ取る気でいたから、それ以降尚華妃を監視していた」
「それにしても、樹皮茶葉の入手経路の証拠はどうやって……」
「豪子が若輩の従者にいつも書類の処分を任せていたから、一枚抜き取って壺の中に隠しておいた」
「全てはあやかしだから出来た働きだな……」
感心すると共に、貂々がいなかったら豪子の不正も暴けず、証拠も揃わなかった。
酒と女に溺れたという暗君、第十代皇帝の鮑泉は時を経てあやかしと姿を変え、今でもこの国を守ろうと奮闘していた。
しかし、そんな貂々に出会っていなければ、こうして協力し合うこともなかったはず。
伯蓮と貂々を繋ぎ合わせたのもまた、朱璃だと考えた伯蓮は一人微笑んだ。
すると、貂々は少し納得していない表情で、伯蓮に尋ねる。
「朱璃を監禁した尚華の侍女らにも罰を下した、までは良いのだが……」
「どうした?」
「胡一族は財産を没収。最北の郷への追放……なぜ国外追放にしなかったのだ?」
豪子と尚華含め胡一族の処分について、貂々は“甘い”と思っていたらしい。
未遂とはいえ、野心を持っていた者はまたいつ牙を向けるかわからないというのに、国内に一族を留めたわけを知りたかった。
「最北の郷は監視も行き届いているし、尚華妃も再起を図れるだろう。それに……」
「それに?」
「二代の皇帝に仕え宰相を務めた豪子への、敬意もわずかにあった」
「はあ……そんなことではいつか寝首を掻かれるぞ」
意地悪そうに貂々に言われたが、その通りだと思っていた伯蓮は苦笑いを浮かべた。
ただ、あんな宰相でも国を支えてくれていた人間に変わりはなく。
娘の尚華にも、できれば今後の未来は父親と仲良く生きていけたら良いという願いを込めた。
すると、大事なことに気がついた貂々が、何やらいやらしい顔をする。
「ということは、伯蓮と尚華の婚姻は解消されたのだな?」
「まあ、そういうことになるな」
「では伯蓮の思惑通り、着々と朱璃を妃として迎える下準備が整ってきたわけだ」
「っ⁉︎」
全て見透かしてように述べる貂々が、ひょいと塀の上に乗った。
それを見上げながら白い息を吐いた伯蓮は、貂々の黄金の毛並みに皇帝のような神々しさを感じて、思わず呼び止める。