あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「伯蓮様、ご苦労様でございました」
「待たせたな、関韋」
そろそろ戻ってくると思っていた関韋が、伯蓮の到着より先に門を開けて待っていた。
ようやく合流できた二人だが、いつになく伯蓮の様子が浮ついているようで、関韋はつい尋ねてしまう。
「嬉しいことでもあったのですか?」
「……わかるか?」
「はい。口角が上がっておりましたので」
直前の出来事の影響が顔に出ていたらしく、自分の頬を触って確認する伯蓮。
関韋に胸の内を知られるくらいどうということはないが、一人でニヤけていたと思われるのは少し恥ずかしい。
「皇帝と何か?」
「いや、皇帝では……いや、一応皇帝か……」
「はい?」
「ふ、なんでもない」
第十代皇帝鮑泉との会話が嬉しかった。なんて報告したら、まともな関韋は医官を連れてくるかもしれない。
何せ相手は二百年前に生きていた人間で、現在は伯蓮と朱璃にしか視えない姿で存在する、貂々というあやかしなのだから。
暗君と呼ばれたその皇帝は、今こうして王宮に棲みつきこの国を守る明君へ。
そんな思いでいた伯蓮は、一つ願いを口にした。
「近々、後宮に行きたいのだが」
「え? しかし尚華妃はもう……」
「そうではない。後宮の北に忘れ去られた古い廟がある話は前にしただろう?」
「ええ、朱璃殿が監禁されていた場所ですね」
「そこで第十代皇帝、鮑泉様の塑像を見つけたのだ」
「十代? 伯蓮様が尊敬しているお人ではないですか!」
「その廟を、綺麗にして差し上げたいのだ」
暗君と呼ばれていたせいで、まるで封印するかのように忘れ去られていた現在。
しかし、これまでの貂々の活躍と鮑泉の真実を知っている伯蓮は、誤った歴史も変えていきたいと思った。
「かしこまりました、手筈を整えておきます」
「……それと、もう一つ」
今度は少し言いづらそうに髪をかきながら話し始めると、関韋はすぐに“朱璃関連”であることを悟る。
尚華との婚姻を解消した今、朱璃との関係を止める者も脅かす者ももういない。
あとは伯蓮が、あの手この手で口説くのみ。
控えめな声でもう一つの“何か”を頼まれた関韋は、少し悩むような顔を空に向けたあと拱手した。
――もうすぐ、鄧北国に本格的な冬がやってくる。