あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
その瞬間、室内に設置されていた燭台全てに火が灯り、パッと目の前が明るくなった。
まるで妖術のような不思議な現象に驚く朱璃だが、落ち着く間もなく視界に映ったのは。
円卓を埋める点心や果物の数々と、甘い香りを放つ果酒。
そして、お馴染みの三々や流と星の姿もあり、渋々呼ばれた様子の貂々が窓辺でそっと眠っている。
それらに囲まれて、嬉しそうに微笑む伯蓮が中心に立っていた。
「よくきてくれた、朱璃」
「は、伯蓮様⁉︎ こ、これは一体……」
状況が飲み込めずに戸惑っている朱璃を、伯蓮が優しく椅子に誘導する。
そしてゆっくり着席させると、朱璃の様子を窺いながら丁寧に説明をはじめた。
「驚かせてすまない。実はずっと朱璃に、礼がしたいと思っていたのだ」
「え……?」
「流を搜索してくれた礼、発見してくれた礼。せっかくだから顔見知りのあやかしも誘ってな」
「礼だなんてそんな……でも、なんだか秘密の集会みたいでワクワクしてきました」
「そうか。……まあ、それともう一つ……」
言いながら、筒杯に果酒を注いだ伯蓮。
それを静かに朱璃の手元に置くと、ほんのりと頬を赤く染めて呟いた。
「……朱璃と初めて出会った日から、一月が経った」
「あの中庭で出会ってから、ですか」
「だから何かお祝いもしたかった。貂々らを誘ったのは、少しでも賑やかな方が朱璃は喜ぶかと……」
徐々に声が小さくなっていく伯蓮は、顔を背けたまま自分の席に座った。
そしてゆっくりと視線を上げると、熱を帯びたような眼差しが朱璃に突き刺さる。
心に大きな衝撃を受けたと同時に、鼓動が速くなって息が止まりそうになった。
(くぅっ……ほらまた……! 前に三々が“恋だな”なんて言うから!)
込み上げる感情を抑えて、朱璃は冷静を装うことで精一杯になる。
つまり今夜は、流発見のお礼と、伯蓮との出会いから一月経ったお祝いの集会に極秘で招かれた朱璃。
それはすなわち、二人の初めての出会いを伯蓮が特別に思っていた、と考えることもできて――胸の奥が熱くなった。
「……朱璃?」
「え! あ、はい! 賑やかな方が嬉しいですっ」
「そうか、良かった」
色々と推測してしまい緊張してきた朱璃が、悟られないよう必死に返事をした。
本人が喜んでくれていると知って安心した伯蓮は、目尻を下げて胸を押さえる。