あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



 そんな様子を見ていると、朱璃の中で何か、今の伝え方では足りないような気持ちが沸々と込み上げてきた。
 他にもっと、伯蓮を喜ばせる重要な言葉を口にするべきだと思ったりもしたが、それはなぜだろうとも考える。
 すると、手元に三々が飛んできてなかなか進まない二人を仕切りはじめた。

「ほら二人とも、乾杯しねぇのか?」
「え?」
「緊張している時間がもったいねぇよ! ほらほら」

 早く筒杯を持てと強引に促す三々に、伯蓮も朱璃も従って目を合わせた時、自然と笑みが溢れた。
 互いにどこかよそよそしくて、だけど確実に信頼感は抱いている。
 そうして円卓の上でコツンと当たった筒杯は、「乾杯」と発せられたそれぞれの口元に運ばれた。

「ん! 美味しいですね!」
「葡萄酒だが強くはないはず、大丈夫だったか?」
「はい、平気です。食べ物もこんなにたくさん……」
「朱璃の好物がわからなかったから、少し多めに作ってもらった」
「ふふ、全部大好物なので嬉しいです。ありがとうございます」

 色々と考えて用意してくれたことを、素直に感謝する朱璃。
 そして目の前にあった桃饅頭(ももまんじゅう)を、幸せそうな表情を浮かべて頬張る。
 ただ、その準備段階で伯蓮は少しだけ反省することがあった。

「……私は、思ったほど朱璃のことを知らなかった――」
「え? 私のこと、ですか」
「好物もだが、酒が苦手ではないか、嫌いな食べ物はないかと悩んだ」

 好きな色、出身地、得意なこと、異性の好みさえも未だに聞けずにいる伯蓮が、寂しげな目で話す。
 しかしそれは朱璃も同じ思いで、噂にはよく聞く伯蓮の本当の姿は、自分の目で見て知った部分のみ。
 だから、知りたいことは尋ねていかないと、知らないまま終わってしまう。
 それは嫌だと思った時、考えるより先に口から例の言葉が出てしまっていた。

「……恋だな……」
「……は……?」
「ハッ⁉︎ え? は? 今なんと?」
「いや、言ったのは朱璃だが」
「私? 何を言いました⁉︎」
「……“恋だな”」

 伯蓮に指摘された朱璃は、顔を真っ赤にしながら円卓で桃饅頭を突いていた三々を睨む。
 「なんで俺?」という表情をした三々だったが、悪い予感がしたので桃饅頭を咥えて貂々のいる窓辺へと逃げていった。
 確かに今のは三々のせいではない。
 しかし、以前朱璃が相談をした時にしつこく言われた言葉が、ずっと頭から離れなかった。
 あれからというもの、伯蓮に抱く気持ちが恋なのかどうか、自分でも判別がつかなくて困っていたのは事実。
 ただ、その悩みを伯蓮には知られたくなかった朱璃が、慌てて取り消しを求めた。


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