あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「これが、恋をするってことなんですね。伯蓮様……」
感情を揺さぶられて、それがたまらなく嬉しくてもどかしくて。
それが伯蓮と同じ気持ちだということが、また喜びに変わる。
そう思うとなかなか離れ難い朱璃だったが、さすがの伯蓮も我慢の限界が訪れた。
自身の体に背後から抱きつく細い腕に手を添えて、ガラリと空気を変える一言を伝える。
「……っでは朱璃、そろそろ飲み直そうか」
「は、はい! そうですねっ」
「こちらの杏仁豆腐も是非食べてほしい」
「伯蓮様のおすすめですか? いただきます!」
二人は席に座り直すと、再度果酒を注いで乾杯し、楽しそうに会話をはじめた。
朱璃と伯蓮の笑顔を眺めていた流と星はホッと肩を撫で下ろし、衾の上で欠伸を漏らして寄り添うように入眠。
閉め出されていた貂々と三々は、窓の外から覗き込んで懲りずに様子を実況していた。
「貂々、伯蓮が耐えたぞぉぉ!」
「……はあ、私たちは一体何を見せられているのだ……」
「まあいいじゃん。始まったばかりの二人なんだから見守ってやろうぜ」
目の前の現実に疑問を抱き困った顔をする貂々を、三々が励ましながら微笑みを浮かべた。
未来ある皇太子が宿命に抗い、しきたりを変えようと奮闘していて。
健気で鈍感な侍女が、初めての恋に胸を躍らせている。
その瞬間に立ち会えたのだから、と話してその場を離れた二匹のあやかしは、まるで二人の保護者のような背中をしていた。
***
深夜になるまで点心や果酒、会話を大いに楽しんだ二人。
いつからあやかしが視えていたのか、今までどんなあやかしと出会ってきたのか。
伯蓮は話しやすい雰囲気作りを心がけながら、朱璃自身のこともたくさん尋ねた。
故郷のこと、家族のこと、あとは――。
「なあ朱璃、私のどんなところが好きだと感じたのだ?」
「ええ⁉︎ そ、そんなことまだ言えませんっ、恥ずかしいです」
「なぜ? 私は朱璃のどこが好きなのか、言い出したら止まらないと思う」
「う……それを平常心では聞けないので、もう少し留めておいてください……」
「はは、わかった。楽しみにしている」
伯蓮の笑い声を聞いて、安心した朱璃は不意に自然な欠伸が出てしまった。
普段ならとっくに寝ている頃だから、眠くて当然だと微笑む伯蓮。
そして席を立ち朱璃の元に向かうと、そのままヒョイと抱き抱えた。