あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



「わ、伯蓮様⁉︎」
「眠いのだろう? 今日はもう休もうか」

 すぐそばにある架子牀まで朱璃の体を運ぶと、流と星が端っこで仲良く就寝中だった。
 そして衾の上に朱璃の体を優しく置くと、伯蓮自身も添い寝のように隣へと横たわる。
 朱璃は慌てふためき、頬を紅潮させながら声をかけた。

「あの! さすがに伯蓮様の部屋で休むわけにはっ……私は自分の部屋に戻――」
「今夜はここで休め。もう手は出さないから安心しろ。……今夜はな」
「っ! ……あああ明日は出すんですか⁉︎」
「それは、朱璃次第かもしれぬ」

 そうして無邪気な笑顔を発揮されると、朱璃も何も言えないくらいにこの顔に弱く、そんな伯蓮に惹かれていく。
 手は出さないという気遣いの言葉と、それを信用できるほどに誠実なところも好き。
 ただ、今夜はもうお腹も心もいっぱいなので、それらを伝えていくのはもう少し気持ちに余裕ができてから――。

「……伯蓮様もこのままお休みになりますよね?」
「ああ、朱璃が眠ったら……」
「いえ同時に寝ましょう! さあ目を閉じてください早くっ」

 寝顔を見られるのが恥ずかしい朱璃は、同時に入眠することを無理矢理勧める。
 急かされて仕方なく目を閉じた伯蓮だったが、朱璃と幸せな夜を過ごせたおかげで、今夜は快眠できそうだと予感した。
 そしてその予感はすぐに的中し、日頃の疲れのせいかそのまま眠ってしまった伯蓮。
 しばし時間が経ちゆっくりと瞼を開けた朱璃が、すぐ隣で寝息を立てる伯蓮を静かに見つめた。
 相変わらず美しいままの伯蓮だけど、寝顔となると皇太子といえど少しだけあどけなさも含まれている。
 そう感じて柔らかい笑みをこぼした朱璃は、眠る伯蓮の耳元で囁いた。

「今日は本当にありがとうございました。おやすみなさい、伯蓮様……」

 気持ちを伝えられて満足げな朱璃は再び目を閉じて、やがて眠りについた。
 誰かが隣にいることの安心感を覚えると、こんなにもすんなり眠れることを互いに理解する。
 そんな忘れられない一夜となった。


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