あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
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朝日が昇ると共に、本日の業務が始まる侍従の関韋。
伯蓮の私室までやってきて、いつものように起床刻を知らせようとしているのだが、扉前で暫し考える。
(……大丈夫、だろうな……?)
昨夜の宴会は、どうしても朱璃と二人でお祝いをしたいという伯蓮の頼みだった。
ここ最近の伯蓮の心労を考えて、今回だけはと承知することにした関韋。
しかし、一応二人は年頃の男女なわけで、それなりに危惧していた。
(あんなことやこんなことまでは許可していませんからね、伯蓮様……)
そう念じ「失礼いたします」と声をかけ、いざ私室の扉を開ける。
しんと静まり返った室内を進むと、円卓の上には空の皿や筒杯が置かれたままで、二人の姿は確認できず。
奥に視線を向けた時、架子牀の衾の上に何かが存在していることに気づいた。
その正体は衣服を纏ったまま並んで寝転がっている朱璃と伯蓮で、小さな寝息を立て寄り添いながら眠っている。
(……な、なんだこの、純真な二人は……!)
その光景は関韋には眩しさを覚えるほどに、清らかな空気を放っていた。
そして自分の想像していたものが、いかに汚い大人の発想だったかを突きつけられて猛省した。
二人とも無防備に安心しきった表情で眠り、その手はそっと繋がれているのが確認できる。
関韋は強い衝撃を受けて、ぐっと眉間を押さえた。そして――。
「……尊い」
つい口を滑らせて出た言葉と共に、二人に畏敬の念を抱く侍従。
もう少しだけこのままでいさせてあげようと、気を利かせて静かに部屋をあとにする。
パタンと閉じられた微かな扉の音に、伯蓮の瞼がピクリと動いた。
「……ん……朝、か……」
寝ぼけた意識の中で、昨夜のことを思い出す。
朱璃に急かされて目を閉じると、まるで遊び疲れた子供のようにすぐ寝てしまった。
本当はもう少し語り合いながらゆっくり眠りたかった伯蓮は、一瞬にして朝を迎えたことを後悔する。
しかし、片手に感じた温もりに気づいて瞼を全開させると、隣に眠る朱璃といつの間にか手を繋いでいた。
「……さっそく、手を出してしまったな」
朱璃への宣言はあくまでも“今夜は手を出さない”だったため、翌日は無効。
よって約束を破ったわけではないと心の中で言い訳をする伯蓮だが、繋がれた手を離そうとはせず。
むしろ、ぎゅっと握り返して朱璃の寝顔を愛おしそうに見つめはじめた。
今なら、昨夜拒まれた口付けが容易にできる。
と一瞬邪念を抱いたが、尚華と同類になりたくない意志が働いてすぐに払われた。
色欲をグッと堪えた伯蓮は、その代わりに強く願う。
こうして手を繋いだまま朝を迎えられる日が、また訪れますように――と。