あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される

終章 捜索係の再出動

　あれから一週間が経ち、すっかり銀世界と化した鄧北国の王都、柊安。
　街には防寒具を身に纏った人々が白い息を吐きながら市場を行き交っていたが、その光景は王宮内でも同じだった。
　夜中に降り積もった雪は、朝になると通路を埋める。
　防寒着を着た侍女の朱璃は、蒼山宮の敷地内を歩きやすくするため、木製の雪べらで積もった雪を道端に寄せていた。

「去年よりはまだ雪が少なくて助かるわ」

　晴れた午前の清い空気を吸い込みながら朱璃が本音を吐露した時、背後からそっと忍び寄る足音。
　そして故意的に驚かそうと、耳元で声をかけられた。

「おはよう」
「ひゃっ伯蓮様！　と、関韋様っ。おはようございます！」

　厚めの外套を身に纏った伯蓮が侍従の関韋と共に現れて、朱璃の背筋がピンと伸びる。
　少し離れたところに従者を数名待機させているところを見ると、これからどこかに向かう様子の二人。
　しかし、伯蓮が足を止めて朱璃と会話をはじめるので、どうやら急ぎではないと察した。

「朱璃は雪かき中か？」
「はい、良い運動になります」
「ん？　その手……」

　言いながら、伯蓮は雪べらを持つ朱璃の手に触れる。
　素手で作業していた手は、赤く色づき氷のように冷たくなっていた。
　すると伯蓮は、毛糸で編まれた手袋を取り出して無理やり朱璃に手渡す。

「これをやる。今すぐ手を暖めよ」
「え⁉︎　こんな高価なものもらえませんっ」
「いやだめだ。朱璃の小さな手がこんなに冷たくなって……」

　関韋の存在も気にすることなく、伯蓮は自分の両手で朱璃の手を包み込み労った。
　じんわりと暖かさが伝わってきたと同時に、触れられたことで近距離に伯蓮を感じた朱璃は胸を高鳴らせる。
　ただ、伯蓮のことだからこのまま手が暖まるまで留まりそうだと心配し、意を決して事情を話した。

「わわ、私だけではなく、皆こうして働いているので……！」
「……皆……」
「それに鄧北国の積雪は一月ほどですし、この寒さは今だけの辛抱なので――」
「関韋っ」
「はっ」
「今すぐ王宮で働く者全員の手袋を製作し配給せよ」

　朱璃の話の途中で関韋を呼びつけた伯蓮は、突然そんな命令を下した。
　あまりの即断に朱璃は驚いていたが、関韋はすんなり承知して従者の一人に伝達する。