あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
宰相、胡豪子の失脚以降、伯蓮は政だけでなく内部にも目を光らせるようになった。
そして誰もが気持ちよく働ける環境を作ることが、より良い国づくりにも繋がると考え、今の即断はその第一歩となる。
伯蓮はとても満足げに微笑みながら、朱璃に自身の手袋をはめた。
「というわけだ。これは私からの先行配給」
「え、でも……うっ、あったかい……誘惑に負けそう」
「そうだろう? 一度はまると欠かせないだろう」
「……っありがとう、ご、ざいます……」
朱璃は悔しそうにしながらも、手袋の暖かさには勝てず素直に礼を述べる。
すると嬉しそうに照れ笑いする伯蓮を視界に映して、思わず胸の奥をキュンとさせた。
あの宴会以降は、二人きりの時間はなかなか取れない。
それは当然のことではあるけれど、伯蓮なりに少しでも関わりたいという思いで、こうして声をかけてくれる。
それだけで心が満たされる朱璃だったが、今日はそれだけではなかった。
「実は、朱璃に見せたいものがあるのだ」
「え?」
伯蓮がこれから向かうところには、どうしても朱璃を連れていきたい場所だった。
***
「ここは……」
朱璃が案内されたのは、後宮内の北側。
かつてそこには、手入れがされておらず至る所が破損している、忘れ去られた廟があった。
以前、その書庫で朱璃は監禁され、同時に第十代皇帝鮑泉の塑像が祀られていたことを発見する。
しかし、本日同じ場所に訪れたはずの朱璃の目の前には、綺麗に修復された美しい廟が輝きを放っていた。
剥がれ落ちていた壁の木材も、破損していた屋根の瓦も真新しくなる。
「昨日、修復作業が完了したと報告があったから、朱璃と生まれ変わった鮑泉様の廟を見たいと思ってな」
「……伯蓮様が、そのように?」
「あのままにしておくことは、礼儀に反するからな……」
第十代皇帝の鮑泉は、伯蓮にとっては歴代の中で最も尊敬する心優しき皇帝。
そして今は、あやかしの姿で国を守る貂々でもある。
そういう意味でも、忘れ去られた廟のままにはしておけなかった。
「それに朱璃を助ける時、鍵がかかっていた書庫の扉も壊してしまったし……」
「え⁉︎ それは知りませんでした」
「朱璃は眠っていたから知らなくて当然だ」
一時的に人間の姿になった全裸の流に、人肌で暖められながら――。
なんて言ったら朱璃の傷を抉ってしまいそうなので、あの時の嫉妬心は胸の中に収めた伯蓮。