よあけとあさひ
それはユウくんだった。肩を上下させていっぱい息を吸って、吐いてを繰り返しているから。夢中で走っていたんだと気づく。
「どうかしたの……? なにか、あったの」
嫌な予感が頭をかすめる。マリちゃんのときもそうだった。嫌な予感は、かなしいことにいつも当たってしまうのだ。
「アサちゃん、ヨルが……倒れた。だから、アサちゃんに会いにいけないと、思う。間違いなく、今日中はムリだ」
「今、どこにいるの」
「集中治療室」
あまりにも重たい響きに、頭に石が落ちたような衝撃を受けた。
どうして。どうしてよ、ヨルくん。
神様ひどいよ。
ぶわっと涙が浮かんで、はじけては床に落ちた。後ろからお母さんの声が聞こえる。
「アサ、行くよ」
「……」
「……アサ」
もう、だめなんだ。
これでお別れなんだ。
そう思ったら、涙があふれて止まらない。
もっと好きって言えばよかった。ヨルくんとずっと一緒にいればよかった。大好きだって言って、手をつないで、ずっとそばにいたかった。
それなのに、お別れの言葉を言うことすらできないなんて。
「……教えてくれてありがとう、ユウくん。ユウくんもがんばってね。アスとはこれからも仲良くしてね」
「アサちゃん……」
「ヨルくんの目が覚めたら、言っておいてほしいの。大好きだったよ、って」
止まらない涙をなんとか止めようとしながら、わたしはユウくんにお願いをした。
「それは……アサちゃんが自分で伝えるべきだよ」
「もうわたしにはムリだから。だから……お願い」
その日、わたしは長い間お世話になった病院を、ヨルくんに会うことなく去った。
手元に残ったままの手紙。これでもう、ヨルくんとわたしをつなぐものはなにひとつなくなってしまった。
電話番号も、住所も、本当の名前だって知らない。
夏の終わり。
奇跡のようなヨルくんとの生活は、こうしてあっけなく幕を閉じたのだった。