よあけとあさひ
3.よあけとあさひ
「アサ今週の土曜日遊ばない? カラオケ行こうよ」
「ごめんっ。今週は忙しくて」
「あー締め切り重なってるやつか。おっけ、じゃあ落ち着いたら行こーね」
「ありがとサツキ」
わたしは、高校生になった。
心臓は今も、鼓動を続けている。退院してから約三年。わたしは今、こうして楽しく"フツウ"の女子高生をしている。
高校で出会ったサツキは、わたしの小説のことを知っているから、遊びの約束を断ってもとやかく言ったりしない。
わたしはあれから小説を書き続けて、高校生になってから買ってもらったスマホの小説投稿サイトで小説を投稿し始めた。ペンネームは【アサ】。いろんな名前を考えたけど、結局この名前がいちばんしっくりきたから。
コンテストに応募して何度も落選続きだったけれど、諦めずに応募していたらなんと編集部の方から声がかかって、作品が書籍化することになったのだ。
その作品は、余命わずかな女の子と病気の男の子が懸命に生きる恋愛小説。モチーフはわたしとヨルくんのことだ。
病院での闘病生活のようすがとてもリアルで、とにかく泣けたという。
そんなわけで、わたしはまたひとつ夢が叶うという奇跡を起こした。
最初は夢をみている感覚だったけれど、いざ書店に自分の本が並んでいるのを見ると、感動でその場で崩れ落ちてしまった。
自分一人だけで描いていた夢が、ヨルくんに支えられて、ついに叶ったのだ。
カバンを持ったサツキが、にやっと笑ってわたしの方を向く。
「あ、そーいえばハヤトがアサと遊びたいって言ってたけど。どーする?」
「え、ハヤトくんが?」
「モテるね、アサ。なんで彼氏つくらないの」
「……好きな人がいるから」
「何回きいても肝心の誰かは教えてくれないのに〜」
頰をふくらませつつも深くは聞いてこないところが、またサツキのいいところだ。
……好きな人。ずっと、ずっと変わらない。
わたしの中では、たったひとりの大好きな人。