よあけとあさひ

 この世界にいるのかどうかもわからない。生きているのかすら知らない。

 だけどわたしは、それでも彼のことが好きなんだ。



 忘れられない。ぜったいに忘れたくない。

 病気だったときのつらさも、決して忘れない。だって忘れてしまったら、マリちゃんのことも、アスやユウくんのことも、何よりヨルくんのことも全部忘れてしまうってことだから。

 そんなのはいやだから。



「また今度きかせてね。じゃあね、アサ」

「うん。また明日」



 ヒラヒラと手を振って去っていくサツキの後ろ姿を見つめる。


 やばい。はやく原稿を仕上げなくちゃ。


 思い出したわたしは、家までの道を駆けるようにたどった。






 家につくと、


「……ん?」


 ふと、郵便受けに何かが入っていることに気づく。



「なんだろう、これ」



 そっと取り出すと、それは薄紫色の手紙だった。

 表には【アサ先生へ】と少し乱暴な字で書かれている。住所には〇〇編集部気付と書いてあるから、これはファンレターなのだと気がつく。



 ファンレターをもらうのははじめてだったから、ドキドキしながら自分の部屋に入って、すぐに封を切った。


 文字の羅列を見た瞬間、ドクッと心臓がひときわ大きく音を立てた。

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