よあけとあさひ
公園につくと、高いバスケットゴールに誰かがシュートを打っていた。
スリーポイントラインから、ほれぼれする綺麗なフォームでボールを放つ。手から離れたボールは、美しい弧を描いてゴールに吸い込まれていった。
ダンッとボールが地面に落ちる。それを拾って、またその"誰か"はスリーポイントラインに立った。
今度はガタッとリングに当たって跳ね返ってきたボールがわたしの足元に転がってくる。
ゆるく風が吹き、木の葉が揺れた。
ゆっくりと"誰か"が振り返る。その人は、前見ていたときよりも凛々しく、それでも昔の面影を残したままの顔をしていた。
パッと目が合う。ビー玉みたいなきれいな目が、まっすぐにわたしを見ていた。
ーー息が止まるような感覚がした。
しばらく目が離せないまま、彼のことを見つめていると、彼もまた同じようにじっとわたしのことを見つめ返した。
この感覚を、わたしは過去に知っている。
「……ヨルくん……?」
そっとつぶやくと、ハッと目を見開いた彼がわたしのほうに近づいてくる。そして、わたしのすぐ目の前に立って、切れ長の目をふっと細めた。
「……アサ?」
記憶にあるよりも低くて、落ち着く声だった。ゆっくりとうなずくと、そっと手を引かれた。
耳元にヨルくんの唇がある。
「抱きしめても、いい?」
カラダ中の熱があがっていく。声を出そうと思っても出せずにただうなずくと、ひかえめに笑ったヨルくんはわたしを抱き寄せた。
前よりもずいぶんとたくましくなった骨格。そして懐かしいヨルくんのにおいと、ぬくもり。
「やっぱり、あれはアサだったんだな」
「読んでくれたの? 小説」
「うん。あの日、アサとお別れできないまま、なんの繋がりもなくて。でもどうにかして探し出したいからって思ってたまたま寄った本屋で、見つけたんだ。アサの小説」
「そうだったんだ……」
「でも、これがアサだって確実な証拠はないからとりあえず買って本読んでみて、それで確信した。やっぱ何度も読んでたから、アサの小説だって分かったよ」