よあけとあさひ
少し笑ったヨルくんは、抱きしめる手の力を強めた。
「まさか来てくれるなんて思わなかった。いや、来てほしかったけどさ。誰からか分からない謎のファンレターが送られてきて会いたいですみたいなのってこわいだろ」
「……うん。正直けっこう怖かったよ」
「やっぱり」
「でも、きっとヨルくんだろうなって思って。なんとなく信じられたし、なにより会いたかったから」
わたしは息を吸って、もう一度告げた。
「ヨルくんに、会いたかったから」
これがすべてだった。
手紙の言葉を信じたのも、家を飛び出してきたのも、この公園に走ってきたのも、全部ぜんぶヨルくんに会いたかったからだ。
後悔はなにひとつしていない。
「アサ、聞いて」
わたしから少しカラダを離したヨルくんが、至近距離でまっすぐにわたしを見つめる。
ビー玉のように澄んでいて、神秘的な瞳だった。
ヨルくんの薄い唇が、静かに動いた。
「俺の本当の名前はヨアケ。美景夜明っていうんだ」
夜明。だから、最初の文字をとってヨルくん。
ヨルくんヨルくんって何度も呼んできたけれど、『夜明』という名前は彼にぴったりで、スッと心に入ってきた。
「だからこれからは夜明って呼んでくれるとうれしい」
はにかんだ夜明くんの目を見つめる。夜明くんの手を握って、何度も頭の中で言葉をくり返す。
「わたしの、名前は……」