よあけとあさひ



 夕方。
 無事点滴を終えて、わたしはひとり、涼むためにヒミツのベランダへと来ていた。

 ここなら、先生や看護婦さんたちの場所からちょうど見えなくなっている。
 だから、唯一外の世界と触れることができる場所なんだ。


 つらくなったとき、わたしはよくここにきていた。

 治療がうまくいかないとき。痛かったとき。症状がつらくてしんどいとき。
 死にたくないなって思ったとき。死ぬのが怖くなったとき。


 だけど、最近はそんなことを考えなくなった。

 どうせ考えたって人はいつか死ぬ。
 生きたいって思うだけムダなんだ、って。



 今日死んでしまったセミのように、もとから"生きられる時間"というのはそれぞれに決まっている。だから、それに(あらが)おうとするのは、間違っているんだって。



 そんなふうに勝手な解釈(かいしゃく)をして、いつからかわたしは、すべてを諦めるようになっていた。
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