よあけとあさひ
「アサ」と書かれた名札を指でなぞる。
ここではみんな、本当の名前とは別の名前を持っている。わたしは"アサ"と呼ばれているけど、本当の名前はアサじゃない。
マリちゃんも、同室にいるアスも、みんな本当の名前じゃない。
『これはね、病気と闘う名前なんだよ。だからね、本当の名前は元気になるまで大切にしまっておくんだ』
病気と闘う名前。先生はそう教えてくれた。
苦しい思い出が本当の名前にこもってしまわないように、っていう先生ならではの考え。
わたしはアサっていう名前、呼びやすくて結構気に入ってる。
夕方の風は冷たくて気持ちがいい。
ほおを通り過ぎていく風を感じて、そっと目を閉じたときだった。
「……あ、昼の」
突然後ろから声がして、驚いて振り返ると。