よあけとあさひ

「ば、バスケットボールの……!」


 そこに立っていたのは、紛れもなくあのバスケットボールを持っていた男の子だった。

 目を丸くしてぼうぜんとしているわたしに、その男の子は、


「俺、ヨルって名前があるんだけど」


 と告げて近づいてくる。

 そうだった。
 この子、ヨルくんって言うんだった。


「キミの名前は?」

「えっ」


 首をかしげられて言葉に詰まる。

 まさかこんなところに現れるなんて思わなかったから。



「俺は教えただろ。仲良くしようぜ」



 急にヨルくんの手が伸びてくる。

 わたしは思わずそれを避けて、病室に戻ろうとした。いきなりのことだったし、何より昼間のときみたいに、目が合ってカラダが動かなくなるのがこわかった。

 けれど、その手をヨルくんが掴む。


 予想外の出来事に心臓がバクバクと音を立てていた。

 なんなの、こわい!!



「……さわらないで!!」



 気がついたら、そんな大きな声を出していた。手を振りはらって、かけ足で病室に戻る。

 廊下の途中でぶつかりそうになった看護師さんに「アサちゃん走らないで」と注意されたけど、かまうことなく夢中で走った。



 苦しい。くるしい。
 しんぞうが、苦しい。


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