よあけとあさひ
ノートのすみに"アサ"と小さくサインしていたのがよかったみたい。口が滑っても「小説家気取りでサイン会の練習をしていた」なんて恥ずかしくて言えそうにないけど。
なぁんだ、ちゃんと見つかったじゃん。
ふうっと息をついてカスミさんからノートを受け取る。
「ありがとう、カスミさん」
「ねぇねぇそれって何のノート?」
「教えなーい」
「もしかして交換ノート……とか?」
「違うけどっ!」
クスクス笑ったカスミさんは「じゃあおやすみアサちゃん」と挨拶をして病室を出ていった。
はぁよかった。バレてない。
もしかすると中身を見られたかも?と思って焦ったけれど、そんなひどいことはしなかったみたいだ。
安心して最新のページを開く。
そしてわたしは、つい大声をあげてしまった。
「……えっ!!」
その瞬間、となりから「うるさい」とアスの声がした。
聞き慣れない声。冷めていて、どこかかわいている。
「ごめん! ……でも」
カーテンのせいで姿の見えないアスに謝ってから、わたしはもう一度ノートに視線を落とした。じいっと見つめる。
そこには。
濃くて太い、大きな大きな字で。
【おもしろかった! 次も読む】
と書かれていた────。