よあけとあさひ
へらっと笑うヨルくんになんだか拍子抜けしてしまう。
「昨日、夜遅かったのにいつ見つけたの?」
「あまり正確には覚えてないけど、だいたい七時半とかだったと思う」
「え!!」
「え?」
「だって、六時半には病室に戻ってなきゃいけないんだよ? 看護師さんにも見張られてるのに、どうやって」
「俺、抜け出しのプロって呼ばれてんだよな」
鼻を鳴らしてあまりに得意げにいうものだから、思わず吹き出してしまう。
「そんなことしたら怒られちゃうよ」
「案外バレないよ。今度アサも一緒にやってみる?」
「……やらない」
少し迷ってしまった自分が情けない。
ほんとうなら「やらない」と即答しなくてはいけなかったのに、ヨルくんのまっすぐな目を見ていると不思議と抜け出したくなってしまう。
けれど、なんとかギリギリのところでとどまった。
ヨルくんは「ちぇー」と残念そうにしていた。
ベランダの手すりにもたれているヨルくんの髪がサラサラ揺れている。
わたしは、深呼吸をしてヨルくんのとなりに立った。
「ヨルくんにお願いがあるんだけど」