よあけとあさひ
ん?とヨルくんがわたしを見る。
近い距離で、ばっちり目があった。
「……小説のこと、他の人には言わないでほしいんだ。小説家になりたいとかじゃないし、たいしてすごいものでもないから。恥ずかしくて」
小さい声でぽそぽそ告げる。
何と言われるか不安だった。もしかしたら、言いふらされてしまうかもしれない。
そんなこわさを頭の中に抱えていたから、いつのまにか視線は下に落ちていた。
けれど。
「言わないよ」
力強い声に、思わず顔が上がる。
まっすぐな瞳と目があった。その瞬間、時が止まったような感覚になる。
これは、初めて出会ったときと同じだ。
トクン、トクン。
心臓が心地よいリズムを刻んでいる。
「誰にも言わない」
ヨルくんはもういちど繰り返した。
まっすぐすぎる瞳に、ウソはこれっぽっちもないような気がした。
今まで、人はウソをつく生き物だと思っていた。
病気が治らないのに「治る」っていうウソをつくし、退院なんてできないのに「もうすぐ退院だ」なんて言うし、誰にも言わないでと忠告したヒミツはあっさり広まってしまう。
だからわたしはウンザリしていた。