よあけとあさひ
それなのに、ヨルくんのことは。
ヨルくんのことだけは、信じてみようって思えた。
きっと、ヨルくんは誰にも言わないのだろう。わたしのヒミツを言いふらしたりしないのだろう。
なんとなくだけど、そう断言できる何かがヨルくんの目からは感じられた。
「こんなの、はじめて……」
「ん?」
「ーー信じる。ヨルくんのこと、信じるよ」
気がついたらそう口に出していた。ヨルくんはびっくりしたように目を見開いてから、ゆっくりその目を細くして、にいっと笑った。
その笑顔にまたドクリと心臓が音を立てる。
「でもさ、アサ」
手すりにもたれたまま、ヨルくんが口を開いた。わたしは黙ってヨルくんの言葉を待つ。
「さっき『恥ずかしい』って言っただろ? でも俺はすごくかっこいいと思うよ。全然恥ずかしいことじゃないよ」
「え?」
「小説書けるってすごいことだよ。尊敬する。俺にはできないから」
ヨルくんは「俺なんて読書感想文五枚もキツいのにさ!」と言って笑っていた。
ーーすごくかっこいいと思うよ。
ーー尊敬する。
そんなことを言われたのははじめてだった。
小説のことは誰にもヒミツにしていたから、当然といえば当然かもしれないけれど、それでも。
まさかこんなにまっすぐな目で褒めてくれるとは思わなかったから、うれしいような、恥ずかしいようなムズムズした気持ちになってしまう。
ヨルくんの言葉が頭のなかでぐるぐるまわっている。