よあけとあさひ

「俺、アサのファンになったよ! 続き読みたいんだけど、ある?」

「ううん。まだ書いてる途中なの」

「じゃあまた読ませてよ。アサの小説すごくおもしろいから、楽しみにしてる」



 うん、と返事をして小説ノートを胸の前で抱きしめる。

 さいしょは、勝手に小説を読むなんてサイテーだと思ってた。だけど、今はわたしのほうが、ヨルくんに小説の続きを読んでほしいと思っている。



「ヨルくんは小説読むのが好きなの?」



 もともと読書家だったとしたら、わたしの小説にキョウミを持つのもわかる。小説を書いている人なんてめずらしいし、観察の対象になるかもしれない。

 でも、ヨルくんの回答はわたしが思っていたものとは違った。



「ぜんぜん。今まで読んだのは三冊くらいだよ」

「すくなっ!」

「だって小説って漫画と違って絵がないから読みづらいんだ」



 ふてくされたように言うヨルくん。


 絵がない分想像できるのが、小説のいいところじゃないの……?


 そう思ったけど言うのはやめた。ヨルくんがこれ以上ふてくされることがないように。




「でもアサの小説は読めたよ。おもしろかったから」

「ほんとに?」

「ああ。小説にハマる理由がわかった気がする」




 ヨルくんは「これで今年の読書感想文はクリアだな!」と言って、頭の後ろで腕を組んだ。
< 28 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop