よあけとあさひ
病室に戻るとアスがいた。めずらしくカーテンが開いていて、わたしたちが帰ってきたことに気づくと、とたんに渋い顔をする。
わたしは最初、アスと目があったとき、無意識に息を止めていた。
得体の知れない「こわさ」や「気まずさ」が一気にわたしの心を埋め尽くしたから。
でも、わたしのとなりにいたヨルくんは違った。
「俺、ヨルって言うんだ。キミの名前はなんて言うの?」
ためらうことなく、にこにこ笑顔を絶やさずに話しかける。これにはアスもおどろいたようで、びくりと肩をふるわせたあとうつむいた。
しばらく沈黙が続く。
そんななか。
「……聞いてるんだけど」
急にヨルくんの低い声がして、思わず顔を上げた。
そうだった。もともとヨルくんはこういう口調の男の子だった。
お礼を求めてきたくらいだもん。
少し偉そうなところがある男の子。
でもこの病院で誰からも優しく甘やかされて育ってきたわたしにとっては、ヨルくんの口調はある意味新鮮だった。
「……アス」
「アス。よろしく!」
だけど、ヨルくんはすぐに明るい口調に戻った。アスがぽつりと告げた名前をしっかり聞きとって、アスに笑いかけている。
ヨルくんは、こわいのか優しいのかよく分からない。
だけど、どんなに強い口調だったとしても、放たれる言葉に棘は感じない。
それがヨルくんのすべてのような気がした。