よあけとあさひ
*

「どうして、生きなきゃいけないの?」


 突発的な発作の時に飲む薬。ずいぶん久しぶりに飲んだな、と思いながら、わたしは病室のベットで横になっていた。

 簡易的な機械を使ってわたしのようすを観察する担当医の森久雫(もりひさしずく)先生に、わたしは思わずきいてしまった。

 雫先生は少し動きを止めて、それからゆっくりとわたしの手をにぎった。



「それは、アサちゃんが幸せになるためよ」

「苦しいだけなのに、どうしてそんな思いをしてまで生きなきゃいけないの?」

「幸せになるためよ」



 薄いメガネの奥にある切れ長の瞳が、わたしのほうを向いた。



ーー幸せになるためよ。



 いっさいの揺らぎも柔らかさもない。かといって、冷たいわけでもなかった。
 ヨルくんに似た、未来を信じる強い目だった。



「……わたしは、幸せになんてなれないと思う」



 未来に期待したって、どうせ無駄になる。それで傷つくくらいなら、最初から期待しないほうがいい。


 ふと気づく。
 またネガティブな考え方に逆戻りしている、って。

 こんな自分、ほんとうに情けない。



「不安になる気持ちはわかるよ。でも、アサちゃんの病気を治すために私はいるの。だから、私を信じて」

「……」



 素直にうなずくことができなかった。

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