よあけとあさひ
言葉では無理だと思ったのか、マリちゃんは鉛筆を持っているわたしの腕を揺らして、わたしが手紙を書くのをじゃましてくる。
マリちゃんが揺らすせいで、文字がぐにゃんと変なかたちになってしまった。
「ちょっとマリちゃん! やめて」
「だったら遊んで。ブレスレットづくり、しようよ!……けほっ」
「今いそがしいの。わがまま言わないで」
いつもとは違うようすのマリちゃんに、だんだんと腹が立ってくる。
どうして今日にかぎってそんなにわがまま言うの?いつもはいい子にきいてくれるのに、どうして?
「マリと……ゴホッ、遊んでよ。アサちゃん……ケホッ」
「ほら、咳も多いし。ちゃんと病室で休んだほうがいいよ」
たいして顔を見ることもなく告げた。
マリちゃんがどんな顔をしているのか、このときのわたしは、気にかけることすらできなかった。
「……わかっ、た」
そんな小さな言葉が聞こえたときには、もうマリちゃんはいなくなっていた。
悪いなとは思ったけれど、体調も悪そうだったし無理して遊ぶべきじゃない。元気になってから、万全の状態で遊ぶべきだと思うから。
ブレスレットづくりも、またやればいいじゃん。
だってわたしたちは、たとえ夢がなくとも、生きる希望がなくとも、結局はこの身体で、変わらない明日を生きるしかないのだから。