よあけとあさひ

 その日の夜は、なんだか病院内が騒がしかった。看護師さんがバタバタと廊下を走るように動き回っていて、不穏な空気が立ちこめている。


 カスミさんも、茶色い髪を揺らしながら真剣な顔で道具や薬を運んでいた。


 なにかあったんだ。
 わたしはベッドのなかで縮こまりながら、そう悟った。


 わたしは、この病院の、緊迫した今みたいな空気をよく知っている。



 何度も経験してきたけれど、絶対に慣れないものだ。



 こういう空気を漂わせる夜がいちばん嫌いだ。やだ。こわい、やめて。どうか、助かって。

 布団の中でぎゅっと目をとじて、ただこの夜が明けるのを待つことしかできない。




 こわい。こわい。
 こんな夜は、だいっきらい。



 こうして夜の病院が先生や看護師さんで騒がしくなるとき。

 それは、誰かの命がーーーー死に近づいているときだから。

< 52 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop