よあけとあさひ
翌朝の病院は、夜の喧騒がまるで夢だったかのように静まり返っていた。
誰に何があったか。それは聞くことができないけれど、どうせじきに分かってしまう。だいたいが顔見知りで、悪いウワサが広まるのはとってもはやいから。
「カスミさん。わたし、マリちゃんと遊んでくるね」
もしかすると、マリちゃんはいろんな人と友達だから何か知っていることがあるかもしれない。もし、それがマリちゃんのお友達だったとしたら。きっと悲しんでいるだろうから、なぐさめてあげないと。
昨日、ひどい態度をとってしまったから、ちゃんと謝らなくちゃ。
それなのに、カスミさんはわたしの言葉を聞くと明らかに目を泳がせた。わたしにもわかるくらい、はっきりと。
……え?
ドクドクと嫌な鼓動が響いている。不規則な動きで、心臓の音がはやくなっていくのが分かる。
まさか、そんな。
いやいや、ありえないよね。
何度も浮かんでくる【最悪な事態】を、思考から追いやって消そうとする。それなのに、なんだろう。この、感覚は。
受け入れたくないのに、聞きたくないのに、なんとなく分かってしまう自分がいる。
「マリちゃんが、どうか、したの?」
そんなわたしの問いかけに、カスミさんのくちびるが、ふるえながら、ゆっくりと動いた。
いやだ。わたしは、それをききたくない。
いやだ、いやだよ。
「マリちゃんは……まり、ちゃんは」
ーーいやだ。
「だめよ……守秘義務が、あるから」
すんでのところで踏みとどまったカスミさん。