よあけとあさひ
わたしは、その言葉を最後まで聞く前に、病室を飛び出していた。
どくっ、どくっ。
心臓から変な音がしている。
まさか、まさかね。
そんなはず、ないよ。
マリちゃんの病室まで走っていくと、廊下でぼうっと一点を見つめていた男の人を見つけた。まだ若くて、三十代前半くらいに見える。
ーー顔が、似ていたから。
否定しようとしても無理があるくらい、その男の人とマリちゃんが似ていたから。
「……あの、マリちゃんの……お父さん、ですか?」
わたしの言葉に、男の人はゆっくりと振り向いて少しだけ目を開いた。それは、肯定を示すにはじゅうぶんだった。
振り向いた顔は、焦燥しきっていて、絶望しているみたいだった。
「キミは、マリカの……」
「……まりか?」
「茉莉花の、友達? もしかして、アサさんかな」
まさか、こんなところでマリちゃんの本当の名前を知ることになるとは思わなかった。
だって、名前をさらっと言ってしまうってことは。
病院のルールを破ってしまう……ううん、破ってもよくなったってことは。
「わたし、アサです。それで、あのっ……マリちゃんは……?」
なんとなく、わかっていた。
嫌な予感はしていた。
それでも、否定してほしかった。
ずっとずっと、信じていたかった。