よあけとあさひ
信じられなくてだまっていると、カスミさんは微笑みながらわたしのとなりにきて、静かにわたしの背中をなでた。
「昨日、聞いたんだもの。すぐに受け止めきれなくて当然よ」
マリちゃんの訃報をきいてから、昨日はどうやって一日を過ごしたのかよく覚えていない。とにかく部屋に閉じこもって、寝たり起きたりを繰り返していたから、意識がところどころ抜けている。
わたしの背中を撫でる手は優しいけれど、どこか弱くて、ふるえていた。
……カスミさんは、かなしくないの?
そんな質問は、わざわざしなくてもいい。
わたしは質問のかわりに、ぎゅうっとくちびるを強くかんだ。
どうして、どうして。
どうしてマリちゃんだったの?
神様、ひどいよ。
あんなに無邪気で、明るくて、優しい子を。
どうしてこんなにはやく、天国に連れていってしまうの?
かなしいという気持ちと、もしかしたらまだどこかで生きてるんじゃないかという希望が混ざり合って、わたしは呆然としていた。
まだ、事実を受け止めきれていない。
だってずっと、元気に笑っていたのに。急に容体が悪くなるなんて、まさかこんなに身近な子が急に亡くなってしまうなんて。
そんなの、思ってもみなかった。
気分が落ちているわたしをみて、カスミさんは「アサちゃん、少し待っていてね」と言って病室から出ていった。そうして、オレンジ色の花束を持って戻ってくる。
「これ……マリちゃんから、アサちゃんにって。預かっていたの」
「え」
カスミさんは、かなしそうに眉を下げて、それからゆっくりと目を伏せる。
「ほんとうは、マリちゃんが直接渡したかっただろうけどね。急なことだったから、ほんとに……」