よあけとあさひ
「アサ」
突然、ずっとずっと聞きたかった声が耳に届いた。
……え?
驚いて顔をあげると、優しく笑うヨルくんが病室のとびらのそばに立っていた。
ヨルくんは、涙で顔がぐしゃぐしゃのわたしを見て、あきれたようにふっと笑う。
「やっぱり、泣いてた」
ヨルくんはわたしに近づいてくると、ベッドの近くにあった丸椅子を引いて、そこに腰かけた。
たった数日会えなかっただけなのに、ずいぶんと久しぶりに感じる。
ヨルくんはわたしの目をじっと見つめた。
わたし、きっといま、すごくひどい顔してる。涙でぼろぼろの顔してる。
ヨルくんの顔を見たいのに、ヨルくんに今の顔を見られるのははずかしい。だけどヨルくんは決してわたしから目を逸らさなかった。
「……アサ」
ヨルくんの手がゆっくりとわたしに伸びてくる。そして、静かに、ヨルくんの指の腹がわたしの涙をぬぐった。
髪の毛がふわ、と風に揺れる。
「アサが泣いてる気がして。それで、会いにきたんだ」
ヨルくんはわたしの涙をぬぐったあと、その手をおろしてわたしの手をにぎった。
はじめて、手をつないだ。ヨルくんの手はとてもあたたかくて、優しくて、とても安心できるもので。
「泣くなよ、アサ。俺がいるじゃん」
これ以上泣かないようにと手をつないだのに、これじゃあ逆効果だった。
……涙、止まらないよ。
ヨルくんはぎゅうっとつないだ手に力を込めた。ヨルくんは深呼吸をした後、わたしに向き直る。