よあけとあさひ


「アサ」


 突然、ずっとずっと聞きたかった声が耳に届いた。


……え?


 驚いて顔をあげると、優しく笑うヨルくんが病室のとびらのそばに立っていた。

 ヨルくんは、涙で顔がぐしゃぐしゃのわたしを見て、あきれたようにふっと笑う。


「やっぱり、泣いてた」



 ヨルくんはわたしに近づいてくると、ベッドの近くにあった丸椅子を引いて、そこに腰かけた。


 たった数日会えなかっただけなのに、ずいぶんと久しぶりに感じる。



 ヨルくんはわたしの目をじっと見つめた。

 わたし、きっといま、すごくひどい顔してる。涙でぼろぼろの顔してる。

 ヨルくんの顔を見たいのに、ヨルくんに今の顔を見られるのははずかしい。だけどヨルくんは決してわたしから目を逸らさなかった。




「……アサ」




 ヨルくんの手がゆっくりとわたしに伸びてくる。そして、静かに、ヨルくんの指の腹がわたしの涙をぬぐった。

 髪の毛がふわ、と風に揺れる。



「アサが泣いてる気がして。それで、会いにきたんだ」



 ヨルくんはわたしの涙をぬぐったあと、その手をおろしてわたしの手をにぎった。

 はじめて、手をつないだ。ヨルくんの手はとてもあたたかくて、優しくて、とても安心できるもので。



「泣くなよ、アサ。俺がいるじゃん」



 これ以上泣かないようにと手をつないだのに、これじゃあ逆効果だった。


……涙、止まらないよ。


 ヨルくんはぎゅうっとつないだ手に力を込めた。ヨルくんは深呼吸をした後、わたしに向き直る。
< 65 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop