よあけとあさひ

「ヨルくんに出会うまでは、ずっと……諦めて生きてたんだ。いつか死んじゃうんだから、って思って、小説家の夢も諦めてたの。だけど、ヨルくんが一生懸命前を向いてるところをみたら、わたしも頑張らなくちゃって思ったの。だから、だめなのはわたし」



 ぐ、と唇を噛んだら、荒かった呼吸がだんだん落ち着いていく。いちばん言いたかった言葉を伝えるための準備が、少しずつ整っていく。


「ヨルくんの未来を勝手に決めつけて、ひどいこと言ったのは、わたしなの」

 

 ヨルくんは小さく首を振った。そうして否定しながらも、わたしの言葉を待ってくれる。急かすこともなく、遮ることもなく、ただひたすらわたしの目を見つめて呼吸を合わせてくれる。

 すうっと深呼吸を一度。



「本当にごめんなさい」



 その瞬間、「ああ、言えた」と安堵で心がいっぱいになった。ヨルくんは、少し笑って、


「お互いさまだな」


 と言いながらわたしの頭をくしゃっと撫でた。

 とたんに、ドキッ、と心臓が跳ねる。今は仲直りできた喜びにひたるべきなのに、太陽のようなヨルくんの笑顔が、なぜだか目に焼き付いて離れなかった。


「じゃ、仲直り」

「うん」


 つながれたままの手が、熱を帯びている。

 今までどこかへ行くために腕や手を引かれたことはあったけど、こうしてただシンプルに手をつなぐのは初めてだった。
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