よあけとあさひ

 慣れないことをしている自覚はある。けれど、ヨルくんが平然としているから、わたしも気にしていないふうを装った。



「マリのことは、ウワサできいたよ。ウワサがひろがるのがこんなにはやいとは思わなかった」

「ここでは、誰かの情報は一瞬で広まっちゃうから。ほんとに、驚いちゃうくらい一瞬だよね」

「マリはきっと、アサに出会えて幸せだったと思うよ」



 突然ヨルくんが言うから「え」と声が洩れた。


「マリちゃんが、幸せ……? だってわたし、マリちゃんになにもしてあげられてない」

「そんなに卑屈になるなって。アサがマリのことを大事にしてたってことは、ちゃんと本人に伝わってるよ。そうじゃないとわざわざ花を贈ろうなんて思わないはずだろ?」

「そう、なのかな」

「そうに決まってるよ」



 なんでかな。ヨルくんに言われると、言葉がすっと心に入ってきて、その言葉を信じようって思える。

 小説の話をしたときもそうだった。ヨルくんがあまりにもまっすぐに生きて、まっすぐな瞳をしているから、自然と信じようって気持ちになれるのかもしれない。


 その時だった。急にとなりのカーテンが開いて、アスの猫目と視線が合う。


「あのさぁ」
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