よあけとあさひ
冷めている声が、静かな病室に響いた。
「あなたがどんなに嘆いて後悔しても、その人はかえってこない。幸せだったかどうか、自分は何かしてあげられたかどうか、そんなのは考えてもムダでしょ?」
薄いくちびるから、刃物のようにするどい言葉が飛び出してくる。きつくつりあがった目は、獲物をとらえるように、絶対逸らさないというように、わたしを見つめていた。
時計の針が、チッ、チッ、と時を刻んでいる。
「人はいつか、必ず死ぬんだから。そんなの、あなたよくわかってるでしょ? 別れがくるって分かっていながら、仲良くするほうが悪いのよ」
「……」
「あたし、なにか間違ったこと言ってる?」
アスの瞳が揺れた。ぎゅっと乾いたくちびるを噛むと、わずかに血の味がした。
アスが言っていることは、事実としてなにも間違っていない。
でも、アスの言い方は……なんだか、死ぬのがこわくないみたいな言い方だった。病気なんだから仕方ない、っていう、前のわたしみたいな諦めの感情が伝わってくる。わたしはぐっとこぶしをにぎって、決意をかためた。
……届いて。伝わって。わたしの思い。
わたしはアスに向き直って、ひとつひとつ、言葉を選んだ。
「アス。わたし、前はアスと同じ考え方だったの。でもね、ヨルくんに出会って変われたんだ。だから、お願い。そんなふうに言わないで」
「……あなたに、何が分かるのよ」
「わたしは今もまだ、死ぬのがこわいよ。でも、だからこそ」
すうっと息を吸った。アスのまつ毛がふるえている。
「明日が来ないかもしれないからこそ、わたしは今日を全力で生きたい」