よあけとあさひ
ちら、と一瞬視界のすみに男の子が映った。
わたしの目は無意識のうちに彼のほうを向いていて、パッと目が合う。ビー玉みたいなきれいな目が、まっすぐにわたしを見ていた。
ーー息が止まるような感覚がした。
しばらく目が離せないまま、彼のことを見つめていると、彼もまた同じようにじっとわたしのことを見つめ返した。
ーーあれ、あんな子いたっけ。
ここにいる子たちとは話すことがなくても、たまにすれ違ったりするから覚えている。
けれど、その中でも彼の顔は記憶になかった。
パッと目が逸らされる。
「ヨルくん、勝手にそんなもの持って入っちゃダメです」
「えーなんで」
急に看護師さんが彼に近づいた。
そんなもの、というのはどうやら彼が持つバスケットボールのことを言っているらしい。
「危ないからよ。ここは病院だから、我慢してね」
「ちぇー」
不満げな顔でバスケットボールを看護師さんに手渡した彼は、しばらくして看護師さんに連れられてその場をあとにした。
「……ちゃん。アーサーちゃん」
「わっ、ごめん、マリちゃん。なに?」
「早く行こうよ、足止まってるよ」
いつのまにか立ち止まっていたらしい。
わたしの腕をマリちゃんが不機嫌そうに引っ張っている。
「あ、ごめんごめん。行こっか」
「まったくもぉ、なにぼーっとしてたの」
「ごめんごめん。ゆるして」
プクッとほおを膨らませているマリちゃんに謝って、わたしはテーブルスペースへと足を動かした。