よあけとあさひ

*

 それから、数日がたった日のこと。

 今日は雨の日。窓に打ちつけるどしゃぶりの雨と、雲に覆われた空が、病院内の空気を悪くしている。




 廊下の突き当たりで、声が聞こえた。なんとなく、突き当たりを曲がってはいけないような気がして、思わず立ち止まった。



「あたし、死なないよね? まだまだたくさん生きられるよね? だって、まだやりたいことたくさん、あるんだよ……?」



ーーそれは、紛れもなくアスの声だった。

 ふるえる声で、すがるように、誰かに問いかけている。



「大丈夫よアスちゃん。あなたを助けるために私はいるんだから」


 雫先生の声が聞こえる。わたしは、息を呑んで、その声を聞いていた。
 まさか、アスもそんなふうに思っていたなんて。
 いつもクールで、きびしい口調のアスが、あんなに弱々しくなるなんて。


 わたし、何にも知らなかった。



「あたし、死ぬの嫌だよ……こわいよ、先生」



 信じられない気持ちで、じっとアスの言葉に耳を澄ます。盗み聞きはだめだって分かっていたけど、その場から動くことができなかった。


 その時。
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