よあけとあさひ
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それから、数日がたった日のこと。
今日は雨の日。窓に打ちつけるどしゃぶりの雨と、雲に覆われた空が、病院内の空気を悪くしている。
廊下の突き当たりで、声が聞こえた。なんとなく、突き当たりを曲がってはいけないような気がして、思わず立ち止まった。
「あたし、死なないよね? まだまだたくさん生きられるよね? だって、まだやりたいことたくさん、あるんだよ……?」
ーーそれは、紛れもなくアスの声だった。
ふるえる声で、すがるように、誰かに問いかけている。
「大丈夫よアスちゃん。あなたを助けるために私はいるんだから」
雫先生の声が聞こえる。わたしは、息を呑んで、その声を聞いていた。
まさか、アスもそんなふうに思っていたなんて。
いつもクールで、きびしい口調のアスが、あんなに弱々しくなるなんて。
わたし、何にも知らなかった。
「あたし、死ぬの嫌だよ……こわいよ、先生」
信じられない気持ちで、じっとアスの言葉に耳を澄ます。盗み聞きはだめだって分かっていたけど、その場から動くことができなかった。
その時。