よあけとあさひ
「なにしてんだよ、アサ」
急に後ろから声がかかった。びくんと肩がはねる。
あせって振り向くと、不思議そうに首をかしげたヨルくんが立っている。
わたしは慌てて唇の前で指を立て、しーっとポーズをしたけれど、もう遅かった。
「……アサ?」
疑うような声のあと、アスが曲がり角から姿をあらわす。そして、わたしの顔を見ると、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていった。
「盗み聞き? いい度胸じゃない」
これは……そうとう怒っている。ここは謝る一択しかなさそうだ。
「ご、ごめんっ」
「……こんなかっこわるいところ、絶対見せないつもりだったのに。さいあくっ!」
ふんと顔を逸らして、アスは去っていった。取り残された先生とわたし、それからヨルくん。だまっていると、先生が「アスちゃんは」と口を開いた。
「アスちゃんはね、素直になれないだけなの。ほんとうは、すごく優しくて繊細な女の子なのよ」
先生の言葉がまっすぐに胸に届く。
いつも、するどい言葉や視線をわたしに向けていたアス。でもそれは思い返してみれば、ほんの少し優しくて。この前も、マリちゃんのことで落ち込んでいたわたしを、結局ははげましてくれるようなものだった。
「……分かってます」
声を出したのは、ヨルくんだった。